内径1mm以下の血管を顕微鏡下に縫合して、遊離組織の血流を再開し組織を遠隔移植する手術は、1970年台になって世界中で盛んになった。日本でも、東京警察病院の波利井先生(後に東大教授)や慶応大学の藤野先生(後に教授)などの先達が世界に先鞭をつける種々のマイクロサージャリーを駆使した手術に成功していた。
丁度少し遅れて私も形成外科の世界に入ったのであるが、医局に指導医もいなく、学会や研究会に積極的に出席し他学の先輩達に個人的にコツを聞いたりして、言わば殆ど独学でマイクロサージャリーの技術を獲得した。
しかしヒトに施行するには10例位の動物のマイクロサージャリーに成功しなくては倫理的に許されないので、ラットの鼠径部の動静脈を使って全例の成功を確認してから、実際にヒトの手術で施行した。
ラットによる練習
左:ラットの大腿動脈をわざと切る。中:血管を8針縫う。クリップの1メモリが1mmである。右:クリップを外して血液の再開を確かめる。なお、太く血液が良く見える方が繋いでいない静脈であり、その下の壁が厚く血液が良く見えない方が繋いだ動脈である。
私が初めて行い成功したマイクロサージャリーによる組織移植は頬部の悪性腫瘍切除後の再建であった。
記念すべき最初のマイクロサージャリーを使った組織移植(1981年施行)。
皮膚悪性腫瘍の切除前(外側の点線が切除範囲)
遊離DP皮弁の移植後1年。
このような微小血管付きの皮弁は、皮膚と皮下脂肪が一体として移植されるが、これに筋肉や骨を付けたり、或いは皮膚なしで筋肉だけとか骨だけとか、指や耳介の再接着とか、神経や爪までも微小血管つきで移植できるようになった。以下に骨を微小血管付きで遠隔移植した成功例を示す。
顎の骨の悪性腫瘍を切除して腰の骨を微小血管付きでマイクロサージャリーを用いて再建した症例。
手術前のCT画像。
切除した悪性腫瘍。
骨盤骨の微小血管付き採取。
骨移植後。
そのX線写真。
20年後の状態。
さてどんな組織でも遠隔移植が可能になって、外科学に革命的一石を投じたものに食道再建がある。従来食道癌とくに上部食道の再建は最も治療の難しいものの一つであった。それをマイクロサージャリーがいとも簡単に治療可能にした。即ち、遊離空腸の遠隔移植である。私も1984年ころより頭頸部外科と消化器外科に依頼されて参画した。
頸部の食道を切除した部分に遊離空腸をマイクロサージャリーで遠隔移植する。
左:空腸の採取。右:頸部の食道切除後の欠損に空腸を遠隔移植し蠕動が回復した所を示す。
さてどんな組織でも遠隔移植が可能になって、外科学に革命的一石を投じたものに食道再建がある。従来食道癌とくに上部食道の再建は最も治療の難しいものの一つであった。それをマイクロサージャリーがいとも簡単に治療可能にした。即ち、遊離空腸の遠隔移植である。私も1984年ころより頭頸部外科と消化器外科に依頼されて参画した。
頸部の食道を切除した部分に遊離空腸をマイクロサージャリーで遠隔移植する。
左:空腸の採取。右:頸部の食道切除後の欠損に空腸を遠隔移植し蠕動が回復した所を示す。
更にマイクロサージャリーが多大の貢献をしたのが、生体肝移植である。以下に私が行った生体肝移植の肝動脈吻合についてお見せする。
図の中央部にある、緑色の血管クリップがマイクロサージャリーで吻合した肝動脈である。
次回は皮膚癌の種類とその切除後再建について述べる。
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