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執筆者の写真百束 比古(HYAKUSOKU HIKO)

その9 豊胸術の現状と課題

私は1976年より前教授の文入先生が当時の豊胸術の悲惨な症例の集積に胸を痛めていたのを見てきた。それはまさに闇の美容手術の為せる悪行であり、施術医はあたかも医師免許を持った詐欺師のように見えた。

その頃、文入先生の音頭もあって学問的に豊胸術を研究して行こうと考え、爾来豊胸術は私のライフワークの一つとなった次第である。


さて、あれから45年、果たして安全な豊胸術は出現したか?

答はノーである。豊胸術というのは美容外科であるが、顰蹙を買いそうな言い方をすると、欲望外科である。女性の「美しくなりたい」「スタイル良くなりたい」「異性を惹きつけるようにならたい」「いつまでも若く見られたい」などというのは、女性に限らずヒト全般

の欲望である。


しかしよく考えると、「死にたくない」「もっと生きたい」「苦しみたくない」などというのも生物にとっては本能的な欲望ともいえる。要するに言いたいのは、人間の欲望を満たすための一つの手段として医療があるとも言える。「美容外科など医学ではない」という医師が多いが決してそうも言えまい。すっかり、話が逸れた。本題に戻そう。


安全かつ理想的な豊胸術とは以下のすべてを満たすものである。


1.入り口にキズアトを遺さない。

2.異物肉芽腫のしこりを形成しない。

3.乳癌を誘発しない。

4.半永久的に型崩れしない。

5.アレルギーも含め全身疾患を惹起しない。

6.全身麻酔を必要としない。

7.ダウンタイムがない。

8.マッサージなどの後療法を要さない。

9.複数回に亘らない。

10.高額でない。


そんなに都合の良い豊胸術があれば世の女性は挙って受けるはずである。可能性があるのは再生医療でがんを誘発しないとの証明のある何らかの注射をすると、乳腺か脂肪が増加ししかも量が不変である、というのが私の夢である。近い内にできそうな予感があるが。次回は、美容外科手術の実際について述べる。

左より;文入教授、私(45歳)私のオーベン久保田先生   



文入教授が本邦で最初に報告した豊胸術後のヒトアジュバント病の死亡例。



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