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執筆者の写真百束 比古(HYAKUSOKU HIKO)

その2 京アニ青葉容疑者の機能的回復はどこまで可能か?

私は青葉容疑者を直接診察したことはないので、飽くまでも1年近く寝たきりの、重症熱傷救命患者の一般論として述べる。

座ることも立つこともできないというのは、熱傷救命のための皮膚移植やケロイド様の瘢痕拘縮が下半身の広範囲にあり、関節も強直したり筋萎縮も進み、股関節、膝関節、足関節などが機能障害を来していると見るのが妥当であろう。

股関節が曲がらない瘢痕拘縮というのは極めて稀で、股関節の瘢痕拘縮というより臀部の伸展障害を伴う瘢痕拘縮によるものしか考えられない。しかし、通常臀部は伸展できないような瘢痕拘縮を来すことはなく、恐らくこれはないと思われる。次に膝部であるが、膝が屈曲できない場合は膝蓋部の瘢痕拘縮による伸展障害があるものと思われる。しかしこれは植皮や皮弁の移植で改善可能である。であるから、これも考え難い。それでは足関節はどうか。こおは、救命がの犠牲で対応が遅れれば尖足となり、アキレス腱と周囲の筋や腱が不可逆性の強直となり立ったり歩行に障害を遺しやすい。従って、青葉容疑者が寝たきりなのはこれが大きな原因と思われる。

機能障害を来す熱傷後の瘢痕拘縮は全身のあらゆる箇所に生じる。顔面では眼瞼に生じると目が閉じられない所謂「兎眼」になる。鼻や耳の突起部に生じると軟骨炎や変形の原因となり、耳や鼻の穴が塞がれることもある。口の周りに生じれば、口唇変形や小口を生じ摂食障害となることもある。

首に瘢痕拘縮が生じれば、首が回らなかったり上が向けなくなり、顔面の変形の原因になることもある。顔の再建には薄い皮膚の移植が必要であり、首の再建には筆者が考案して現在世界的に用いられている薄い皮弁の血管付き移植がいいのだが、いずれも他部位からきれいな皮膚を採って移植 しなければならないが、青葉容疑者は全身の殆どの皮膚が培養皮膚や瘢痕であるから何れも難しい。上半身では脇、肘、手、指が瘢痕拘縮になりやすいが、いずれもきれいな皮膚を移植できないと再建できない。特に手は一度瘢痕拘縮で固くなると治しようがない。下半身については前述した通りである。

いずれの部位もリハビリテーションでどうにかなるものではなく、先立つ拘縮解除と皮膚移植が必要であるが、自分のきれいな皮膚以外は役に立たないので、青葉容疑者のように全身の大半が培養皮膚の移植後だと、機能再建に供されるためのきれいな皮膚は極めて少なく、救命はされたが機能は犠牲になったと言ってもあながち間違いではなさそうである。

では、次回は青葉容疑者はこれからどうなるのか医学的に考案する。(写真は熱傷による尖足の例)


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